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1日目 かわね路号と寸又峡の「うん」も森林軌道跡の笑いに揺れた夢の吊橋、 及び花火にも取説が必要かどうかについての事例報告 「いつでも行けると思っていると、いつまでも行かない」というのは、我が心の師・宮脇俊三先生の名言である。 僕は、こまうさぎ氏と遠距離恋愛をしている関係上、東海道を鉄道で通ることが屡々である。その為、沿線の風景は写真に撮ったように覚えているものが多いし、内田百關謳カが「特別阿房列車」の中で語られている「汽車の中で居睡りをしてゐて、どこで目がさめても、目がさめた途端に見えた窓の外の景色で、ここは何処の辺りだと云ふ事が解る」才能も、ほぼ身に付いてしまった。 而るに、つい最近までその沿線に、未乗のまま放ったらかしになっている路線が散見されたのである。 読者諸兄のご存じである通り、僕は「旅客営業鉄道全線乗破」を目標に掲げ、日本各地に未乗のまま残る路線を丹念に乗破してゆくという旅を幾度もしているのだが、それにしては、天竜浜名湖鉄道(2004年9月乗破)、樽見鉄道(2005年3月乗破)、遠州鉄道(2005年6月乗破)などなど、つい最近まで未乗のまま残存していた路線が異様に多かった。 しかし、本当にいつまでも行かないというのも、それらの線に対して申し訳ないような気がするし、こまうさぎ氏邸への往復時に少しずつ乗破してはいったのだが、一筋縄ではいかない路線があった。 大井川鉄道である。 大井川鉄道は、その名の通り全線を大井川に沿って走る鉄道で、大井川本線と井川線を合わせた全長は75.0kmに及ぶ。その気になれば一日で往復する事も不可能ではないが、この路線は元々中部電力が、大井川の上流にダム建設をするべく敷設した路線である事から山岳鉄道としての要素が強く、特に、途中駅の千頭以降には、ラックレール式鉄道で登る90‰の急勾配が待ち構えているのである。無論、他にも見所は多いのであって、これを一日で片付けてしまうのは実に勿体ない。 千々に考えを巡らしていたある日、こまうさぎ氏が僕に旅の相談を持ちかけた。 それは、同僚に鉄道の旅が好きな女性教諭が居て、一緒に旅をしたいと言っている。しかも1泊2日が限度ではあるが、歴史が深く、温泉のある所へ行きたい、という条件を付けてきたらしい。 早速僕たちは検討を開始した。まず候補に上ったのは向こうが打診してきた山陰だが、これは日数の関係上どう考えても無理であり、敢えなく却下。その後、妻籠・馬籠はどうか、郡上八幡は、川原湯温泉もいい、などと議論は転々としたのだが、ここで僕は大井川の話を持ち出した。大井川なら、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」の文句で名高いように、東海道という日本最大の動脈に育まれてきた歴史がある。また、沿線には寸又峡、接阻峡など温泉や深山幽谷の地も多い。そして何より、日帰りするのが勿体なかった大井川鉄道を、「友人との旅行」という大義名分の下に乗破できるではないか。 一応の決定をみた上で、宿の予約はこまうさぎ氏に任せ、僕は行程の立案と列車の予約などを行った。いつも東海道本線の車窓から指を 僕は複数人数での旅をあまり好まない。その場のお喋りや雰囲気のせいで、見るべき借景を見逃したり、旅そのものの印象も曖昧になったりする事があるからだ。 と言うと、お前は何も喋らず憮然とした旅を続けたいのかと仰言る方が居られるだろうが、無論、そうでもない。僕は大のお喋り好きであり、複数人数が集う場では、間違いなく黙っている時間より喋っている時間の方が長い。いつぞや、友人と麻雀をした際、あまりに話し止まない僕を友人が見かねて、うるさいから3分間だけ黙っていろと僕に命令した。僕もその瞬間は、命令の遂行を承諾したのだけれど、結果的に、その命令は1分と経たないうちに破られてしまったのである。 つまり、僕が複数人数での旅を好まないのは、自分があまりに人にばかり気を取られるからであり、決して人嫌いな訳ではないのだ。 |
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朝が早かったので朝食を充分には取っていない事もあり、僕は空腹で、皆が2杯目のお代わりをする時、既に3杯目を食べ終えるくらいであった。結局、僕は4杯、こまうさぎ氏も2杯半を平らげたが、ななな氏カップルは僕たちに気圧されたのか、かなり少食であった。 腹も朽ちくなって安倍川駅に戻り、いよいよ大井川鉄道の発着する金谷駅へと向かう。 さて、ここでななな氏カップルについてお話ししておこう。ななな氏は今年28歳、こまうさぎ氏と同じ都内のある小学校に勤務している事は先にも触れた。彼氏のたむたむ氏はななな氏より2歳年下で、法学部の大学院に在籍し、社会問題の研究などをなさっている。 僕は当初こまうさぎ氏から、2人が実にマジメで、関西人である僕の下らない冗談など殆ど解さないのではないかという話を聞いており、これは、いつものようにバカな話ばかりする雰囲気にはならないに違いないと、一週間程前から、たむたむ氏が研究されている分野の本に目を通し、大井川の地理・歴史にも少し明るくなっておき、いつどんな難しい話をされてもある程度の受け答えができるようにしていたのだが。 事実は、この2人、僕らより余程バカップ……いやいや、面白いのではないかという結論に達した事を、先に述べておく。 |
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まず好調に回数を伸ばし始めたのはたむたむ氏である。あっという間に10回を突破し、他の追随を許さぬかのように、一人だけ殿上人になったかのように……見えた。 しかし、それでは済まないのがこういうゲームの悪質なところである。皆が敬語禁止に慣れてきた辺りで、新たに禁句を追加する事になった。追加されたのは相槌の「うん」。その時、最も回数の少なかったこまうさぎ氏を貶める為に僕が発案した禁句だったのだが、これで大いに場を盛り上げてくれたのがななな氏だった。僕が 「今日は暑いねぇ」「うわぁ、だんだん谷が深くなるなぁ」 などと、実に態とらしく言うトラップに、一々「うん」「うん」と墓穴を掘ったりしてしまい、僕は得たりや応という感じだったが、ななな氏はあっという間にアウト回数20回を突破した。 挙げ句の果てには、彼氏のたむたむ氏が親切心から 「もう、何も喋らない方がいいよ」 と言ったのに対し「うん」と返事してしまうなど、もう誰にもななな氏を止める事はできない。 しかし、こまうさぎ氏は気付いた。失言王を自認する碓氷峠の夏のアウト数が、やけに少ないのである。 理由は、禁句の種類にあった。僕は「むしろ」という副詞を連発するので、敬語と同時にそれも禁止されていたのだが、この語は、使わないでおこうと思えば使わないで済むような性質の語であるから、大してアウト数には貢献していないのだ。敬語では幾度か引っ掛かっているものの、最大の理由は「うん」にあった。 と言うのも、僕は「うん」などという相槌を滅多に打たないのである。僕の話し言葉は古い大阪方言なので、相槌は「せやな」「ホンマや」「なぁ」などなのである。 狡猾なこまうさぎ氏は、そこに目を付けた。関東人が「うん」を禁止されるのと同じ事だと、碓氷峠の夏に「ホンマ」禁止を命じたのだ。この巧妙さは、うさぎと言うよりはキツネである。 以後の僕は凄まじい勢いでアウト数を伸ばした。それまでアウト数1桁を維持し、「うん」でアウト数を稼いだこまうさぎ氏に抜かれて最低回数であったのに、一挙2位まで躍り出たのである(1位のななな氏は、もはや雲の上の人となっており、とても追いつけない)。 僕もそれなりに対策を講じ、「ホンマや」は相手に対して同意を示す言葉だから「もう皆に対して相槌は打たないよ」と、 「ねぇ、寸又川って大井川の支流だよね?」 「いや」(註:勿論、寸又川は大井川の支流である) 「碓氷君、かなりアウト数増えてきたね」 「いや」 など、何を言われても「いや」と返事するようにしたりしたが、口癖というのはそう簡単に直るものでなく、決め手にはならなかった。 それどころか、先程のななな氏と同様、僕も「もう、絶対アウトになれへんぞ、ホンマ!」などと見栄を切ったりして、誰の助けも借りずにアウト数を増やしていった。 このゲームが心理的に与える影響は凄まじいものがあり、帰り道では、あれ程お喋りな皆の口が重くなり、実に静かな集団と化していた。それでもアウト数だけは着実に増えていたから、人間とは賢いのかバカなのか分からぬ動物である。 |
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因みにロケット花火の正しい点火方法は、瓶などに上向きに差し、導火線に点火して素早く3m以上離れる、だそうだ。 しかし、この暴発事故がとんでもない「災い」をもたらした。僕以外の3人は、あくまでも根が大真面目な人間なので、この暴発事故の後、吹き出し花火・打ち上げ花火の前には、全員が花火の説明書を注意深く読むようになってしまったのだ。これ自体は別に仕方のない事なのかも知れないが、1つの花火の説明書を携帯電話の灯りで丹念に読むものだから、1つの花火が終わってから次の花火に点火するまでに、2〜3分の時間が必要になる。 さすがに間が延びて仕方ないので、いい加減な性格の僕がとても耐えられなくなり、間もなくこの事態は止んだ。 大体、最近は乾燥剤や入浴剤の小さな袋にまで「食べられません」「万が一飲んでしまった場合は、速やかに医師による診断を受けて下さい」などという説明書きが為されているが、どう考えてもこれらは必要でない。 PL法の施行によって、こうした無駄な事が往々にして行われている訳だが、常識のある人間なら、もし乾燥剤や入浴剤を口にしたとしても、その味覚・発熱・発泡などに気付いてすぐ吐き出すであろうし、万が一……と言うよりも億が一、飲んでしまった場合も、医師の診断を要する状態にならない訳がない。想像してもみてもらいたい。胃の中でシリカゲルが水分と反応して熱を発し、炭酸水素ナトリウムが胃酸を触媒として二酸化炭素を発生し続けるシーンを。そんな化学反応が体内で起こっていながら、「今日は体の中からポカポカするわ」「やけにさっきからゲップがよく出るな」などと言いつつ普通に生活を続けられる人が居たら、それこそスゴイではないか。 ただ、ななな氏がロケット花火を下向きに発射した事件の直後にこんな事を書いても、舌鋒が鈍い事甚だしいだろうが。 部屋に戻って団欒しつつ、罰ゲームの執行に入った。罰ゲームの要領は至って簡単で、罰ゲームをする人が僕お手製のサイコロを振り、そこに書かれている内容の話をする、というものである。内容は「やってもーた話」「初恋の話」「失恋の話」など。また「他の人にあげる」の面もあり、これが出ると、やはり僕お手製の正四面体のサイコロを振るが、このサイコロには僕たち4人の名が書かれており、名が出た人に罰ゲーム1回分をプレゼントする事ができる(但し、自分で自分にプレゼントしてしまう可能性もあり、現に何度かそれが起こった)。 ななな氏が誤ってたむたむ氏のメルアドを着信拒否登録してしまった話、たむたむ氏の趣味・フットサルでの失敗談、こまうさぎ氏が今夏久米島で溺れた話、僕が水泳部時代に経験した数々のバカ話、どれもこれもかなり笑えたのだが、まさかここでそれらを紹介する訳にはいかない。あくまでもこれは紀行文だという事を忘れて頂いては困る。 爆笑の夜は更け、僕たちは眠りに就いた。車など通らない山間なので騒音もなく、深い深い眠りであった。 |
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| タイトル背景 | : | 90‰の急勾配を後押しするED900型電気機関車 |
| 背景 | : | 日本最急・90‰の勾配標 |